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逢ふことも          

逢ふことも今はなきねの夢ならでいつかは君をまたは見るべき

 -藤原彰子



逢うことも今はもう無く、泣き寝の夢のなかで逢えるばかり。いつかまたあなたと再会できますでしょうか。



寛弘八年(1011)、夫である一条天皇が崩じ、夢にほのかに見えたので思わず詠んだというのがこの和歌です。「なきね」に「無き」と「泣き寝」が掛かった、とても切ないものです。


藤原道長と倫子(源雅信の娘)の長女、彰子。長保元年(999)、彼女は道長によって半ば強引に一条天皇に入内させられ、中宮となります。


ただ、一条天皇にはすでに藤原定子という后がいました。后がふたりとなるのは異例なことでしたが、道長は定子を「皇后」(天皇の正妻)、彰子を「中宮」(皇后と同じ意味)と名称を変えることで、正当化してしまったのです。


その後、定子は24歳の若さで他界、ただひとりの后となった彰子は、のちの後一条天皇、後朱雀天皇を出産します。実は、定子の残した子、敦康親王を、彰子は養母として大切に育てていました。一条天皇の意志とともに、彼を跡継ぎに据えようとしていましたが、父道長の抵抗にあい、それは叶いませんでした。




正義感と優しさを常に持っていた彰子。彼女のもとには名だたる才女が出仕しています。赤染衛門や伊勢大輔、和泉式部、なかでも特に深い絆で結ばれたのが紫式部でした。




―仮名遣い―


あふことも(裳)いま(万)は(者)なきねのゆめな(那)らで

いつか(可)は(者)君をまた(多)は(盤)見るべ(遍)き(起)




(根本 知)




今月の御菓子:夢枕





二色の錦玉羹を流し合わせて、夢の中を表現しました。


かすかに見える外郎製の小玉が、逢うことが叶わないふたりのようです。



菓子製作 巖邑堂(浜松)


 

台紙貼り表具

中廻し: 蔓唐草文銀襴

天地:古代絓

軸先:水牛代用


今回台紙に使った、鶴のある紙は仮名書で使う料紙です。

裂地の取り合わせは、歌の意味をそのままに受け取って、夢のなかのような雰囲気が出ればと思いました。

(岸野 田)



※次回の更新は、6月上旬を予定しています。

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