やへむぐらたえぬる道と見えしかど 忘れぬ人は猶たづねけり
-赤染衛門
幾重にも葎(むぐら)が生い茂り、途絶えてしまった道と見えたけれど、忘れぬ人はそれでも訪ねてくれたのだなぁ。
中宮彰子に仕えていた女流歌人の伊勢大輔が、父が亡くなったことで「和歌の道も絶えてしまうに違いありません」という意味の歌をつぶやきました。それを聞いた赤染衛門は、この和歌で返します。
「やまと歌は人の心を種として、よろづのことの葉とぞなれりける」といったのは紀貫之ですが、和歌で名を馳せた父の死による伊勢大輔の悲しみは、ことの葉が重なり合い、言い尽くせぬ感情だったことでしょう。
歌壇にもその悲しみは拡がっていったと思われますが、赤染衛門はそれらの感情を「八重葎」に見立てたのだと私は思います。そして、それでも後世、新たな才能が必ず現れることを信じているのです。
―仮名遣い―
やへ(遍)むくら たえぬるみちとみ(見)えしか(可)と
わす(春)れぬ人は(者) なほ(本)た(多)つねけ(介)り(里)
(根本 知)
今月の御菓子:おとずれ
道明寺生地で白餡を包み、小豆色、淡い緑、濃い緑の餡で生い茂る草(やへむぐら)を表しました。
途絶えそうな道に、あるとき静かに希望がやってくるように。
菓子製作 巖邑堂(浜松)
二段表具:中風帯
中廻し:蔓草花紋様裂
天地:江戸期火消しの半纏裏
軸先:牙代用
中廻しの裂地は、初年の「さび」(「見渡せば 花も紅葉もなかりけり 浦の苫屋の秋の夕暮れ」藤原定家)の作品に使った裂地と同じものです。歌にある「八重葎(やへむぐら)」の形がこの裂地に近く思い、その葎の向こうに書、歌の意味が佇んでいるようにみえればと思いました。
(岸野 田)
※次回の更新は、4月上旬を予定しています。
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