ももといふ名もあるものを
時の間に散る桜にも思ひ落とさじ
-藤原宣孝
桃の花は「百」という名もあるのだから、あっという間に散ってしまう桜に劣るものではけっしてないよ。
紫式部の父為時が越前守となる十年も以前から、度々邸を訪れていたのが藤原宣孝です。あるとき、為時邸を来訪した際に女二人の寝室に侵入し、なかでも式部と結ばれたといわれます。翌朝、式部は朝顔にまつわる歌を贈るのですが、この経験は後の『源氏物語』「空蝉」などの話に繋がったのではないかと思われます。
さて、宣孝は越前に下った紫式部へ求婚の文を出しますが、式部は幾度となく断りました。二十歳も歳が離れ、既婚経験もある相手に躊躇していたのかも知れません。この歌では、当時にしては結婚が遅いことに気遅れする式部を、桃の花になぞらえて想いを伝えたのでしょう。宣孝はアプローチを重ね、徐々に親密になりっていきました。
ただ結婚後も、宣孝の派手な暮らしぶりは変わりませんでした。二人はぶつかったり、想いをさらけ出したりすることで、お互いを理解し合うのです。その様子は現在、さまざまな和歌として残されています。
―仮名遣い―
ももといふ名もあるも(毛)のを(越) ときのま(万)に(二)
ち(千)るさくらに(耳)も(毛) おもひお(於)とさじ(志)
(根本 知)
今月の御菓子:花時
穏やかな陽射しに花々が目覚める季節。
桜に主役を譲りつつ、その影で楚々と咲く桃の花を、練り切りで表現しました。
菓子製作 巖邑堂(浜松)
二段表具:垂れ風帯
中廻し: 蔓唐草文様金襴
天地:フシナナコ
軸先:面金、塗り
かすかに香る春の様子が感じられる表具が良かろうかと思いました。
春が近くなって掛けるたび、見飽きないオーソドックスな表具を目指しました。
(岸野 田)
※次回の更新は、5月上旬を予定しています。
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