めぐりあひて 見しやそれともわかぬまに 雲隠れにし夜半の月かな
-紫式部
久しぶりにめぐり逢ったというのに、見定めのつかないうちに雲隠れしてしまった、夜半の月であるよ。
『源氏物語』の作者、紫式部は、藤原為時の娘で、一条天皇の中宮・藤原彰子に仕えました。生没年も定かではなく、その生涯は謎に包まれています。
百人一首にも選出されたこの和歌には詞書がついていて、それによると幼友達にあてた一首とのこと。久しぶりに会えたのにゆっくりと話す時間もなく、またどこかへと去ってしまう友人に対しての心残りを夜半の月にたとえて詠んでいます。
若き紫式部も、赴任する父の為時に連れられ、越前(現、福井県)に移り住んだことがありました。当時も今と変わらず、とりまく環境に流されてゆくことは、決してめずらしいことではなかったのです。
―仮名遣い―
めくりあひてみ(見)しやそれとも(毛)わ(王)か(可)ぬま(万)に(二)
雲かくれに(耳)し夜半の月か(可)な(奈)
(根本 知)
今月の御菓子:雲がくれ
ゆったりと波打つ曲線で表現された、雲のかかる月夜。
月に照らされた草木にぼんやりと浮かぶ紫や紅の色合いが、友人とのつかの間の邂逅の喜びと寂しさを表しているようです。
菓子製作 巖邑堂(浜松)
台紙貼り表具 筋風帯
裂地 : 色竹屋町縫紗 唐草紋緞子 無地正絹
軸先 漆塗り金彩
平安時代は、巻物がたくさん作られた時代です。通常上下に配置する一文字を左右に配置することで、横に広がる巻物の形を表したいと思いました。
(岸野 田)
※次回の更新は、2月上旬を予定しています。
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