言の葉はつゆ掛くべくもなかりしを風に枝折ると花を聞くかな
-清少納言
言葉を交わすことは少しもなかったのに 風(あなた)が枝(女心)をたわますような、花やかな噂を耳にしましたよ。
『枕草子』で有名な清少納言。彼女が中宮定子に仕えたのは正暦4(993)年のこと。
「かかる人こそは、世におはしましけれ」
(このような方が、世の中にはいらっしゃるのだなぁ)
一条天皇が寵愛した藤原定子を、几帳の後ろからはじめて見た清少納言は、その美しさに感嘆しました。その後、定子の信頼を得ていきますが、そのきっかけはやはり「香爐峰の雪」のエピソードでしょう。定子の「香爐峰の雪はいかに」との語りかけに、すぐに白楽天の詩を想起した清少納言。即座に御簾を高く巻き上げるという機転に、彼女の知識が確かなものであると定子は認めたわけです。
他にも藤原行成との逸話では、『史記』の孟嘗君列伝にみえる故事をふまえた、教養の高いやり取りが伝わっています。この手紙の行き来のなかで生まれた清少納言の歌が、百人一首にも取られた「夜をこめて鳥の空音ははかるるとも よに逢坂の関は許さじ」です。
今回取り上げた和歌にも詞書が残っています。ある方が六位蔵人を辞したあと、宮中で恋文をもらうことのない女房たちに、むやみに恋文を送っているいう噂を聞きます。それに対して詠んだ和歌で、誰にあてたかは分かりませんが、きっと行成にしたのと同様、毅然とした対応をしたものでしょう。
このような機に応じて応答する、才気ある姿こそが清少納言の魅力であると私は思います。
―仮名遣い―
こと(登)の葉は つゆかくへ(遍)くも
(毛)な(奈)か(可)り(李)しを
風に(耳)しをると花に(尓)き(支)くか(可)な(奈)
(根本 知)
今月の御菓子:夏は夜
紫に染めた濃淡の羊羹を重ねて奥行きを出し、彫刻のように周りを削ぎ落としました。最後に中心に柔らかなシベと金粉を置いて、聡明で才能豊かな女性を表現しました。
菓子製作 巖邑堂(浜松)
明朝表具
中廻し:着物反物
縁:ヨーロッパ刺繍古裂
軸先:塗り砂子巻き
この歌を読んだときの感覚を、ヨーロッパの古い映画にも感じたことがありました。
そこで海外の素材を使おうと思い、着物の反物と合わせました。
(岸野 田)
※次回の更新は、8月上旬を予定しています。
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