煙とも雲ともならぬ身なれども草葉の露をそれとながめよ
-藤原定子
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煙とも雲ともならない我が身ではありますが、どうか草葉にのる露を私だと思って偲んでください。
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一条天皇に愛された皇后宮・藤原定子は、崩御の後、本人の希望により土葬されたと伝わっています。定子の葬儀の様子は『栄花物語』に描かれています。年の瀬の冷たい雪の降る日、兄弟の藤原伊周や隆家が次々と参列し、悲しみの歌を詠みました。
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しかしそれが叶わない一条天皇は、今宵が葬儀だろうかと、定子を偲んでは夜を明かします。一般的な火葬であればせめて煙で霞む野辺を眺められるのにと、涙に濡れた袖が凍るほどにやりきれない気持ちに駆られました。
「野辺までに心ばかりは通へどもわが行幸とも知らずやあるらん」
鳥辺野(葬地)まで、心だけは偲んで通っていくが、私が訪れたとも気づかないことだろう)
一条天皇がいかに定子を想っていたかを、さまざまな伝記が今に伝えています。
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―仮名遣い―
けふりと(登)も雲と(登)も(毛)な(那)らぬ身な(奈)れども
くさ(佐)は(者)のつゆをそ(曽)れとなか(可)めよ
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(根本 知)
今月の御菓子:面影
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着物に見立てた三色重ねの外郎に錦玉羹の露を置き、ゆず餡を包みました。
愛する一条天皇と離れざるを得なかった定子に想いを寄せて、製作しました。
菓子製作 巖邑堂(浜松)
中廻し:蔓草花文様
天地: 綿の古裂
本紙筋廻し:竹屋町裂
軸先:陶器
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作品が料紙と相まって、まさに歌の情景が表れていると感じました。
ただ淋しいことだけではなく、どこか暖かみの残る表具を目指しました。
(岸野 田)
※次回の更新は、7月上旬を予定しています。